現役のITエンジニアが、 システム開発の現場で求められる知識を発信
記事検索
公開

「良いプロンプト」はAIに作らせよう

生成AI関連

はじめに

忙しい現場において、複雑なプロンプトのテクニックを学ぶ時間はなかなか捻出できないですよね。実は、AIに“良いプロンプトそのもの”を作らせた方が、速くて再現性が高い場面がほとんどです。
ただし、ここで一つ大きな落とし穴があります。
それは、AIにプロンプト作成を丸投げしてしまうことです。
「いい感じのプロンプトを作って」と依頼すると、AIはあなたの意図を推測で補います。その結果、「使えそうで使えない」「チームで使い回せない」という、半端に良い指示文が生まれがちです。
本ブログでは、この問題を解決するためのAIにプロンプトを作らせるための最小限の設計フレーム(5点セット)を紹介します。
狙いは、あなたが文章力を頑張ることではなく、仕様の要点だけを伝えて、AIに設計させることです。

人間からAIへプロンプト設計書を渡す

Nano Banana Proで生成

よくある誤解

「AIに“良いプロンプト作って”と言えば十分」

→ 不十分です。
AIはあなたの業務目的や制約を知らないため、インターネット上の汎用的で抽象的なテンプレートを提示してきます。

「プロンプト作りをAIに任せれば、こちらの入力が雑でも大丈夫」

→ むしろ逆です。
「プロンプト設計の素材(仕様)」が曖昧だと、AIの「推測」が増え、意図しない方向にズレていきます。

結論:AIにプロンプトを作らせるときも「5点セット」

あなたがAIに渡すべき情報は、書きたい文章そのものではなく、その一段上の概念である「仕様」です。具体的には以下の5点です。

  1. 【目的】:何の業務成果を得たいか
  2. 【前提】:素材・想定読者・今の状況
  3. 【制約】:やってはいけないこと/守るべき条件
  4. 【出力形式】:最終的に欲しい形(表、箇条書き、JSONなど)
  5. 【評価基準】:何をもって「良い」とするかの判定軸

プロンプト設計の5点セット

Nano Banana Proで生成

ポイントは、
「AIに作ってほしいのは“最終成果物”ではなく、“最終成果物を安定出力させるためのプロンプト”である」
と意識することです。

5点セットを「AIへの依頼文」に変換する

あなたが書くべきは長文のプロンプトではなく、「プロンプト設計の依頼仕様書」です。

依頼文の基本フォーマット(メタプロンプト)

以下が、AIにプロンプトを作らせるための「型」です。

prompt.md

あなたは優秀なプロンプトエンジニアです。
以下の条件を満たす「(用途)のための最適なプロンプト」を作成してください。

【目的】
(ここに入力)

【前提】
(ここに入力)

【制約】
(ここに入力)

【出力形式】
(ここに入力)

【評価基準】
(ここに入力)

## 追加要望
作成したプロンプトに加え、以下も出力してください。
- 想定される失敗例(ハルシネーション等)
- 改善オプション(短い版/厳格版)
- そのままコピペできる社内共有用テンプレート形式

この時点で、あなたの作業は設計要点の入力に限定されます。文章力ではなく、仕様の明確化こそが勝ち筋です。

Before / After:AIにプロンプトを作らせる実例

AIにプロンプトを作らせるBefore After

Nano Banana Proで生成

例1:議事録要約プロンプトを作らせる

悪い依頼

「議事録をいい感じにまとめるプロンプト作って」

良い依頼(5点セット適用)
prompt.md

あなたはプロンプトエンジニアです。
以下の条件を満たす「会議メモから議事録を作成するためのプロンプト」を作ってください。

【目的】
ラフな箇条書きメモを、プロマネが意思決定に使える「議事録」に整形したい。

【前提】
- 入力は箇条書きのラフなメモ
- 読み手はプロジェクトマネージャ
- 元のメモには抜けや曖昧表現がある前提

【制約】
- 固有名詞は必ず【伏せ字】にする
- 400字以内の要約も必ず併記する
- 推測で事実を補わない(不明点は「不明」と明記)

【出力形式】
以下の見出し順で出力:
1. 目的
2. 決定事項
3. ToDo(担当・期限・成果物を明記)
4. 未決事項
5. リスク

【評価基準】
- ToDoに「担当・期限・成果物」がすべて入っているか
- 推測による補完がなく、根拠がメモに紐づいているか

この依頼を投げるだけで、あなた専用の実務プロンプト(プロンプト生成用プロンプト)がAIから返ってきます。

例2:顧客メール草案プロンプトを作らせる

悪い依頼

「お礼メール書くプロンプト作って」

良い依頼(5点セット適用)
markdown

あなたはB2B向けのプロンプトエンジニアです。
以下の条件を満たす「打ち合わせ後の顧客フォローメールを作るためのプロンプト」を作成してください。

【目的】
打ち合わせ後の御礼と、次回アクションの確認を漏れなく行いたい。

【前提】
- 顧客は既存顧客(関係性は良好)
- トーンは丁寧だが、過度に硬くしない

【制約】
- 機密情報は書かない
- 価格・見積金額にはメール内で触れない
- 相手の発言を捏造しない(不明点は確認事項として出す)

【出力形式】
件名+本文
本文は以下の3段落構成:
1. 御礼
2. 合意事項の要約
3. 次アクション(担当・期限)

【評価基準】
- 次回アクションが具体的で、担当と期限が含まれているか
- 余計な提案や推測が混ざっていないか

5点セットを埋めるための質問集

ここまでご覧いただいて、「これを埋めるのがまず大変なんだよ」という声が聞こえてきます。
なにを埋めればよいか悩んだときは、この質問にシンプルに答えてみましょう。

  • 【目的】この出力で誰が何を決める?成功したら何が減る?
  • 【前提】入力は何で、欠けている要素は何?
  • 【制約】やってはいけないことは何?
  • 【出力形式】見出し固定?表?JSON形式?
  • 【評価基準】合格条件は何?

まずは上記の質問に一言回答するだけで十分です。

プロンプトがうまくいかない場合

まずは、最初から完璧を目指さずに出力されたプロンプトを試してみましょう。
その結果出力された内容が期待したものではない場合、次のような観点で5点セットを修正をしていくのが良いです。

失敗 原因 追加すべき要素
形式が崩れる 出力形式が曖昧 見出し固定、順序固定、例を1つ付ける
推測が混じる 制約が弱い 「不明なことは不明と書け」「根拠行を引用せよ」
長すぎる 評価基準がない 文字数上限、優先順位(決定事項>TODO>リスク)
トーンが硬すぎ/軽すぎ 前提不足 読者、関係性、媒体(メール/Slack)明記

最初から完璧なものは出てきません。
何度も試しながら、徐々に最適なプロンプトを生成AIと一緒に作り上げていくことが大切です。

AIがより良いプロンプトを作るための3つのコツ

忙しい現場でこれだけは覚えておきたい「コツ」は以下の3つです。

1. 用途を「名詞+動詞」で固定する

「議事録を作る」「メール草案を作る」「仕様要約を作る」など、粒度を明確にしてください。「いい感じにまとめる」といった動詞はNGです。

2. 「禁止事項」を詳しく書く

AIの精度を上げるのにやらないことリストは効果的です。

  • 推測で補完しない
  • 機密を書かない
  • 固有名詞は伏せる
  • 挨拶文は省く

これらを【制約】に入れるだけで、手戻りが激減します。

3. 「評価基準」を入れるとプロンプトが締まる

評価基準がない依頼は、AIにとって正解のない作文になってしまいます。

  • 「ToDoに担当・期限・成果物が入っていること」
  • 「元データにない情報は出力しないこと」

このようなチェック項目を渡すことで、AIは生成されたプロンプト内に自己検証(Self-Reflection)プロセスを組み込みやすくなり、精度が一段階上がります。

まとめ

忙しい現場では、良いプロンプトを自分でゼロから書くより、AIに設計させる方が圧倒的に効率的です。
ただし、丸投げは品質を不安定にします。
AIに渡すべきは、目的・前提・制約・出力形式・評価基準の「5点セット」です。
文章作成を頑張るのではなく、仕様の要点だけを埋める「設計者」を目指しましょう。プロンプトは魔法の呪文ではなく、ロジカルな「設計」だからです。

生成AI活用支援サービスのご紹介

Tech Funでは、お客様のフェーズに合わせ、生成AI活用に向けた支援を3つのパックでご提供しています。

  1. 無料診断パック:業務・プロセスの現状を無料で診断し、生成AI活用の可能性をレポートします。
  2. 検証(PoC)パック:診断で有効性が確認された業務を対象に、プロトタイプ構築を支援します。
  3. コンサルティングサービス:生成AI導入戦略の策定から運用体制構築までを包括的に支援します。

生成AIに限らず、Web・業務システム開発やインフラ設計など、技術領域を問わずご相談を承っています。「何から始めれば良いか分からない」という段階でも構いませんので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

執筆・編集

Tech Fun Magazine R&Dチーム
Tech Funの生成AI研究に携わるエンジニアが、最新のAIモデル動向やプロンプト設計、実業務への応用手法など、生成AIに特化した知見を執筆・編集しています。
モデル評価や業務シナリオに応じたAI活用設計など、日々のR&D活動で得られる実践的なノウハウをわかりやすく紹介します。

ARTICLE
生成AI関連記事一覧

生成AI関連

「良いプロンプト」はAIに作らせよう

生成AI関連

生成AIの“知識の限界”をどう突破する?

生成AI関連

GPT-5.2 徹底解説

生成AI関連

MCPサーバーを活用する【後編:実行編】

生成AI関連

生成AIに機密情報を渡していいの?

生成AI関連

MCPサーバーを活用する【前編:自作編】

生成AI関連

小さく始める生成AI活用

記事一覧を見る