現役のITエンジニアが、 システム開発の現場で求められる知識を発信
記事検索
公開

生成AIの導入と定着に向けて

生成AI関連

はじめに

「AIエージェント元年」と呼ばれた2025年も、もうすぐ終わります。
AIが当たり前になってきた一方で、「そろそろやらないと」と思いながら手が付けられていない企業も多いのではないでしょうか。
この記事では、生成AIを使った業務効率化に向けて、私たちがこの一年間支援してきた経験を踏まえながら、

  • どの業務から始めるか(導入の入口設計)
  • どのツール/形態を選ぶか(運用前提の選定)
  • どう定着させ、継続改善するか(型・ルール・体制)

を、導入が「試して終わり」にならない観点で整理します。
年末年始の仕込みに使っていただき、年明けに生成AIが使われる状態でスタートを切る材料になれば嬉しいです。

導入・定着を阻む3つの落とし穴

生成AIの取り組みが進まない理由は様々ですが、現場でよく見るつまずきは、だいたい次の3つに集約されます。

1. 成果が定義できず、判断が先送りになる

生成AIはできることが多いので、「とりあえず触ってみよう/試してみよう」で始めること自体は、とても良いと思っています。触らないと分からないですからね。
一方で、企業で進める以上は何をもって成功とするかが必要になります。ここが曖昧だと、「なんか良さそう」止まりで、投資判断に必要な根拠が出ません。
最低限、最初にこの3つだけは決めたいところです。

  • 誰の(どの部署の)、どの業務を対象にするか
  • どれくらい減らしたいのか(時間・工数など)
  • 品質の合格ライン(レビュー基準・許容するミスの範囲)

さらに、初期段階では「次の意思決定に繋がる数字」を取りに行くことが大切です。例えば、

  • 工数削減:月〇時間(または1案件あたり〇分)
  • 手戻り:レビュー指摘数、やり直し回数
  • 利用:配布数ではなく、週次のアクティブ率
  • 型の浸透:テンプレ利用率、テンプレ経由の成果物比率

ここでポイントなのは「精度を唯一の評価指標としない」ということです。
50%の精度を70%にする労力と、95%の精度を99%にする労力は数倍から数十倍変わります。
AIの精度が100%になるということは基本的な起こりえないので、精度ばかりをみているといつまでも導入ができなくなります。
初期の取り組みは、次の判断(拡大・継続・止める)に必要な材料を揃える活動であると理解し、精度は運用面を考えるための材料と割り切る方が前に進みます。

2. 導入したが、業務フローに入らない

アカウント配布までは進むのに、日常業務に入っていかない。これは単体のチャット型ツールでもワークフロー型エージェントツールでも起きます。使えるのに、使わない。
この状態だと利用が「個人の工夫」に依存します。再現性が出ませんし、組織のナレッジも溜まりません。その結果、次のような困りごとが発生します。

  • 使いどころが人によってバラバラ
  • 入力の仕方(プロンプト)が属人化
  • 出力のレビュー・保存・共有が決まっていない

ここで重要なのは、説明会よりもです。
業務の中で「迷わず使える状態」を作るほうが圧倒的に効きます。
そしてもう一つ、見落とされがちなのが「型は放置すると腐る」という点です。
テンプレや事例は更新担当がいないと、いつの間にか使われなくなります。

3. ガバナンスが曖昧で、利用を広げられない

便利さとセットで、生成AIはリスクも連想されます。意思決定者からすると、線引きが曖昧な状態では「怖いから止める」が合理的になってしまいます。
最低限、以下の境界線は1枚で説明できる状態にしておくことが重要です。

  • 入力してはいけない情報(機密・個人情報・顧客特定情報など)
  • 出力の扱い(そのまま使うのか、レビュー前提か、保存ルール)
  • 困った時の相談先(窓口を一本化)

「ルールを増やす」よりも、「境界線を決める」方が運用が回りやすいです。
たとえば医療のように規制が強い業界では、ガイドラインの読み解きが前提になります。自分たちが関わる業界ごとの規制・ガイドラインは、必ず確認しておきたいところです。

3つの落とし穴

Nano Banana Proで生成

ツール選定は「機能」より「運用設計に耐えるか」で決める

ここまでの落とし穴は、突き詰めると次の3つに集約されます。

  • 評価(成果定義・指標)
  • 運用(業務フロー・型・継続改善)
  • ガバナンス(境界線・相談導線)

つまり、論点の多くは非機能要件です。
機能が良くても、運用に乗らないと使われずに終わります。

まず「導入形態」を分ける:個人の生産性か、チームの仕組みか

個人利用vsチーム利用

Nano Banana Proで生成

ここを最初に切り分けると、選定が一気に楽になります。

  • 個人の生産性ツール:文章作成、要約、アイデア出し、整理など(「自分の作業」が速くなる)
  • チームで使う仕組み:ナレッジ検索、FAQ整備、問い合わせ対応など(「組織の作業」が揃う)

前者は導入が軽い一方で、放置すると属人化しやすい。
後者は設計が必要ですが、一度形になると効果が継続します。
「全社員に配布したのに使われない」が起きるのは、導入形態が曖昧なまま進めるケースが多いからです。

選定の評価軸は、まずこの4つで十分

チェックリストを作りこみすぎると進まないので、まずはこの4つだけでも押さえましょう。

  • 管理性:権限、ログ、利用状況の可視化、棚卸し
  • データ境界:入力制限を運用で守れるか/仕組みで防げるか
  • 統合性:ID、チャット、ドキュメント、チケットとつながるか
  • 再現性:テンプレ化して、誰が使っても一定の品質になるか

生成AIツールの定着は精度そのものより、周辺の運用設計で勝負が決まることが多いです。

「多機能」より「続けられる」を優先する

多機能なツールほど万能に見えますが、運用負荷も増えます。担当者のキャッチアップコストも無視できません。
業務効率化で重要なのは、完璧さよりも、

  • 日常業務で自然に使える
  • 迷わず使える
  • 管理できる

という「続けられる条件」を満たすことです。
使うたびにドキュメントを読むような製品は、だいたい使われなくなります。

定着の鍵は「配布」ではなく、業務に埋め込む「設計」

導入から一歩進むかどうかは、ここで決まります。

「型」で定着させる

定着に効くのは、説明会よりも次の3つです。

  • その業務で使えるテンプレ(入力→出力例)
  • うまくいった例(ビフォーアフター)
  • 失敗しやすいポイント(NG例と回避策)

「状況に応じて使い分ける」を最初から目指すより、まずは業務フローに自然に組み込む方が強いです。
迷わず使える状態は、それだけで利用率と品質を押し上げます。

ルールは増やさず、「境界線」だけを決める

ルールを増やすとスピードが落ちます。例外を考え始めると、いつまでも始められません。
決めるべきは「境界線」です。

  • 入力NGの定義
  • 出力の扱い(レビュー前提/保存ルール)
  • 相談先(一次受けの窓口)

この3つだけでも「怖くて止まる」を大きく減らせます。

運用の持ち主を決める(小さくていい)

定着はツールではなく、運用が回るかどうかで決まります。大掛かりな体制は不要ですが、最低限「持ち主」は必要です。

  • テンプレ/事例の更新担当(増やしすぎない運用)
  • 利用状況のモニタリング(週次または月次で十分)
  • 相談窓口(一次受け→必要に応じて専門へ)

「誰がメンテするか」を曖昧にしないだけで、定着率は大きく変わります。

小さな仕掛けで「使われる状態」を作る

定着は大きな施策より、小さな継続が効きます。

  • 週1回15分の「使ってみた共有」(成功も失敗も可)
  • テンプレ更新(増やしすぎない)
  • 成功例の見える化(誰でも真似できる形で)

狙うべきは「使う人が増える」より先に、「使い方が揃う」です。
使い方が揃うと、品質が揃い、安心して広げられるようになります。

定着のための3要素

Nano Banana Proで生成

おわりに

生成AIは大きく始めるほど難しくなります。
業務効率化の文脈では、小さく試して、続けられる形に整えていくのが現実的です。
年末年始は、まずは「1業務・1テンプレ・1指標」だけ決めて触ってみる。
そして年明けは、業務フローの中で迷わず使える状態(型と境界線と持ち主)を作る。
この順番で進めると、導入は加速し、定着が起こりやすくなるのではないでしょうか。

生成AI導入を成功させる3つのポイント

Nano Banana Proで生成

生成AI活用支援サービスのご紹介

Tech Funでは、お客様のフェーズに合わせ、生成AI活用に向けた支援を3つのパックでご提供しています。

  1. 無料診断パック:業務・プロセスの現状を無料で診断し、生成AI活用の可能性をレポートします。
  2. 検証(PoC)パック:診断で有効性が確認された業務を対象に、プロトタイプ構築を支援します。
  3. コンサルティングサービス:生成AI導入戦略の策定から運用体制構築までを包括的に支援します。

生成AIに限らず、Web・業務システム開発やインフラ設計など、技術領域を問わずご相談を承っています。「何から始めれば良いか分からない」という段階でも構いませんので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

執筆・編集

Tech Fun Magazine R&Dチーム
Tech Funの生成AI研究に携わるエンジニアが、最新のAIモデル動向やプロンプト設計、実業務への応用手法など、生成AIに特化した知見を執筆・編集しています。
モデル評価や業務シナリオに応じたAI活用設計など、日々のR&D活動で得られる実践的なノウハウをわかりやすく紹介します。

ARTICLE
生成AI関連記事一覧

生成AI関連

生成AIの導入と定着に向けて

生成AI関連

AI議事録のしくみ

生成AI関連

「良いプロンプト」はAIに作らせよう

生成AI関連

生成AIの“知識の限界”をどう突破する?

生成AI関連

GPT-5.2 徹底解説

生成AI関連

MCPサーバーを活用する【後編:実行編】

生成AI関連

生成AIに機密情報を渡していいの?

生成AI関連

MCPサーバーを活用する【前編:自作編】

生成AI関連

小さく始める生成AI活用

記事一覧を見る