市場調査、競合分析、技術選定の下調べ、提案書の裏取り。こうした「調べもの」は、ビジネスの意思決定に欠かせない一方で、多くの時間を奪う業務でもあります。複数のWebサイトを巡回し、情報を読み比べ、出典を確認しながらレポートにまとめる作業は、内容そのものよりも「情報収集と整理」に時間の大半を費やしているのが実情ではないでしょうか。
近年、この調査業務を大きく効率化する機能として「Deep Research」と呼ばれるカテゴリのツールが各社から提供されています。これは、生成AIが自律的に何十~数百ものWebソースを巡回・分析し、出典付きのレポートを生成するというものです。通常のチャットでの質問や単発のWeb検索とは異なり、調査の「計画から実行、統合」までを一括で任せられる点が特徴です。
本記事では、Deep Researchとは何かを整理したうえで、業務でどのように活用できるか、効果的な使い方と注意点を解説します。デモには、利用しやすいChatGPTのDeep Research機能を用います。
なお、生成AIに最新情報を扱わせる必要性については以下の記事でも解説しています。あわせてご覧ください。
Deep Researchは、生成AIが「調査タスク」を自律的に遂行する機能です。利用者が調べたいテーマを伝えると、AIが調査計画を立て、Web上のテキスト・画像・PDFなど多数の情報源を巡回しながら、必要に応じて検索を繰り返し、最終的に出典付きの構造化されたレポートを生成します。
OpenAIは、この機能について「人間が何時間もかけて行う作業を数十分で完了し、数百のオンライン情報源を発見・分析・統合してリサーチアナリストレベルのレポートを作成する」と説明しています。
Deep research is OpenAI's next agent that can do work for you independently—you give it a prompt, and ChatGPT will find, analyze, and synthesize hundreds of online sources to create a comprehensive report at the level of a research analyst.
Deep Researchの位置づけを、従来の使い方と比較すると次のように整理できます。
| 項目 | 通常のチャット(検索なし) | 単発のWeb検索 | Deep Research |
|---|---|---|---|
| 情報源 | モデルの学習済み知識 | 数件の検索結果 | 数十〜数百のWebソース |
| 処理時間 | 即時 | 数秒〜十数秒 | 数分〜30分程度 |
| 調査の深さ | 調査は行わない | 中程度 | 深い(多段階で探索) |
| 出典 | 基本的になし | あり | あり(レポートに引用付き) |
| 向く用途 | 既知の整理・壁打ち | 簡単な事実確認 | 体系的な調査・レポート作成 |
Web検索を使わない通常のチャットは即座に回答が返る反面、情報源が学習済みの知識に限られ、最新情報や出典の提示には向きません。単発のWeb検索は最新情報を扱えますが、参照するソース数は限定的です。Deep Researchはこの中間的な手間を引き受け、時間をかけてでも網羅的かつ検証可能な調査結果を求める場面に適しています。
ChatGPTのDeep Researchは、おおむね次の流れで動作します。
実行には数分から30分程度かかります。時間がかかるのは、AIがその間にWebを巡回し、得られた情報に応じて検索方針を調整しながら調査を進めているためです。
なお、ChatGPTのDeep Researchは継続的に更新されており、特定のWebサイトに調査範囲を限定する機能や、調査中に追加の指示を出す機能なども追加されています。利用時点の最新仕様は、公式ヘルプで確認できます。
Deep research in ChatGPT | OpenAI Help Center
Deep Researchは、次のような「初動の情報収集」に時間がかかる業務で効果を発揮します。
いずれも共通するのは、「人が判断する前段階の、情報を集めて整理する工程」をAIに任せられる点です。集めた結果をそのまま使うのではなく、人が検証・取捨選択するための土台として活用するのが基本的な考え方です。
ここでは、ChatGPTのDeep Researchを例に、効果的な使い方を見ていきます。
ChatGPTの入力欄からDeep Researchを選択し、調査したいテーマを入力します。すると、AIがいくつかの確認質問を返すか、調査計画を提示します。計画を確認し、必要に応じて観点を追加・修正してから実行すると、調査が始まります。
本記事では、実行例としてTech Fun株式会社について調査するプロンプトを用います。公開情報をもとに、会社概要や事業内容を整理するケースを見ていきます。


調査の質は、最初の指示の具体性に大きく左右されます。次の要素を明示することで、目的に沿ったレポートが得られやすくなります。
プロンプト設計の基本的な考え方は、以下の記事で紹介している「目的・前提・制約・出力形式・評価基準」の5点セットと同じです。Deep Researchでは、これを調査範囲、調査観点、参照してよい情報源、確認基準として具体化すると使いやすくなります。
| 指定する要素 | 記述例 |
|---|---|
| 目的・用途 | 「社内の技術選定会議の資料として使う」 |
| 前提・範囲 | 「国内市場に限定」「直近2年の情報を中心に」 |
| 調査観点 | 「料金、機能、サポート体制、導入実績の4点で比較」 |
| 出力形式 | 「比較表を含め、各項目に出典を明記」 |
| 制約 | 「一次情報を優先」「広告・PR記事は参考程度にとどめる」 |
| 評価基準 | 「根拠URLを明記」「公式情報で確認できない項目は不明と記載」 |
たとえば、単に「RAGツールについて調べて」と依頼するよりも、次のように依頼するほうが実用的なレポートが得られます。
国内企業がRAG(検索拡張生成)を導入する際に検討候補となる主要なマネージドサービスを調査してください。
- 目的: 社内の技術選定会議の比較資料
- 前提: 国内企業が業務利用する前提で、直近2年の情報を中心に調査
- 観点: 対応モデル、料金体系、日本語対応、セキュリティ機能、導入事例
- 出力: 各サービスを比較表でまとめ、項目ごとに出典リンクを明記
- 制約: 一次情報(公式ドキュメント)を優先し、広告・PR記事や個人ブログは参考扱い
- 評価基準: 各項目に出典リンクがあり、公式情報で確認できない内容は不明と明記
調査が完了すると、見出しで構造化されたレポートが、本文中の各記述に対応する出典リンク付きで生成されます。この出典リンクが、Deep Researchを業務で使ううえで最も重要な要素です。記述の根拠となったページをたどり、内容が正確か、情報が古くないかを確認できます。


Deep Researchは強力な機能ですが、生成AIである以上、出力が常に正確とは限りません。Web検索を伴うことで、学習済み知識のみに頼る場合よりもリスクは下がりますが、それでも誤情報が混入する可能性は残ります。実際、Deep Researchの提供元も、Web検索が生成AI特有の誤りを完全には防げないこと、出力が長くなるほど誤りのリスクが高まることに言及しています。
業務利用では、特に次の点に注意してください。
生成AIの出力精度に対する考え方については、以下の記事でも詳しく解説しています。
Deep Researchを社内業務に取り入れる際は、機能面だけでなく運用面の整備も必要です。
まず、機密情報の取り扱いです。調査の指示文に自社の非公開情報や個人情報を含める場合、利用中のプランのデータ取り扱いポリシーを確認する必要があります。社内ルールで入力可能な情報の範囲を定めておくことが望ましいでしょう。この点は以下の記事も参考になります。
次に、利用回数の管理です。ChatGPTのDeep Researchは、契約プランによって月あたりの実行回数に上限が設けられています(無料プランと有料プランで異なり、上位プランほど多くなります。具体的な回数は変更される可能性があるため、利用時点の公式情報をご確認ください)。チームで利用する場合は、誰がどの用途で使うかをある程度整理しておくと、限られた回数を有効に活用できます。
そして最も重要なのが、最終的なアウトプットに対する人間のレビューです。Deep Researchはあくまで調査の初動を高速化する道具であり、生成されたレポートをそのまま社外資料や意思決定の根拠にするのは適切ではありません。AIが集めた情報を土台に、人が検証・編集・判断するという役割分担を前提に運用することが、品質とリスク管理の両面で重要です。
Deep Researchは、調査業務の「情報を集めて整理する」工程を生成AIに任せ、人は「検証と判断」に集中するという新しい役割分担を可能にする機能です。
調査の初動を高速化できれば、その分の時間を本来注力すべき分析や意思決定に振り向けられます。まずは社内の定型的な調査業務から、Deep Researchの活用を検討してみてはいかがでしょうか。
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